51.寄稿記事

2017年7月14日 金曜日

残業代請求について(2)

前回に引き続き残業代請求のお話を。

当事者同士の話し合いで問題が解決せず、第三者関与の下での解決を検討する場合、「あっせん」「労働審判」「訴訟」といった手続があります。

「あっせん」は行政が間に立って話し合いでの解決を目指す手続、「労働審判」と「訴訟」は裁判所が双方の言い分を聞いて一定の結論を下すことを目的とする手続です。


あっせんは出席に強制力がなく、法的な審理が尽くされるわけでもなく、任意の話し合いという色合いが濃く、弁護士が関与することは滅多にありません。


労働審判は原則3か月以内、3回期日以内に結論を出す手続、訴訟は特に期間制限なく主張と立証を尽くさせる手続です。

時折、「労働審判は早く終わると聞いたので労働審判でお願いしたいのですが」と言ってこられる相談者の方がいますが、そう都合のいいものではなく、本来は訴訟で1年くらいかけて審理するものを大幅に圧縮するのでどうしても無理が生じます。

労働審判に適した事件は意外と少なく、証拠が揃った争いのない簡易な事案でないと、労働者側が不利な譲歩を強いられたり、結局訴訟に移行して余計に時間がかかったりすることもあるので注意が必要です。


労働審判にせよ、訴訟にせよ、申立をするのは労働者側であることがほとんどです。
未払いの残業代があるということを労働者側が十分に主張立証しなくてはならないので、正しい計算をして、適切な証拠を揃えてこれを提出する必要があります。

使用者は基本的に受けて立つ側となるので、反論防御の対応を取ることとなります。
典型的なところでは、証拠の不備や計算の誤りを指摘する、その時間は労働していなかったと反論する、固定残業代制の採用を主張する、残業代の発生しない管理監督者であることを主張する等。
その他、変形労働時間制や裁量労働制、業務委託であって雇用ではないといった反論がなされることもあります。

裁判官は双方の主張立証の内容や程度から得られた心証に基づいて和解の提案をしてきます。
合意が得られれば和解、得られなければ審判または判決が下され、その内容に応じて今度は強制執行の要否を検討することとなります。

大まかな説明ではありますが、以上が残業代請求の基本的な流れとなります。

(『蒼生 2017年7月号』掲載記事)

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2017年4月17日 月曜日

弁護士費用特約について

以前、交通事故に関するコラムの中で『弁護士費用特約(弁特)』というものについて少し触れましたが、今回は弁特についてもう少し掘り下げてみます。


弁特とは、任意保険のオプションの1つで、交通事故被害に遭った人が相手方・相手方保険会社との示談交渉や裁判を弁護士に依頼する際の弁護士費用をこちら側の任意保険会社が負担してくれる、というものです。


保険会社によって若干内容は異なりますが、1件につき300万円まで保険会社が弁護士費用を肩代わりしてくれます。
弁護士費用が300万円を超えるケースというのは、寝たきりになるほどの重い後遺障害が残るような重大事故に限られてきますので、大半の交通事故の弁護士費用は補償の範囲内に収まることになります。


弁特が最も有用性を発揮するのは、停車中の追突事故、横断歩道の巻き込み事故等の過失ゼロの事故です。

完全な被害者となった場合、あなたが自動車の任意保険に加入していても保険会社は何もしてくれません。
自動車の任意保険は加入者が『加害者』となったときのためのものだからです。

しかし、弁特があればこういうケースでも自己負担なく弁護士に依頼できるため、安心して治療に専念できます。


弁特が驚異的なのは、「デメリットがほとんどない」という点です。
唯一デメリットとなり得るのが保険料ですが、弁特の費用は月額150円程度。
これだけの負担で実質無料で弁護士を使えて、補償対象は被保険者のみならず家族親族も、弁特を使っても以後の保険料は上がらず、しかも弁護士に交渉を任せれば慰謝料額が裁判基準まで引き上げられて示談金額が大幅増額。
余計な心配かもしれませんが、保険会社は赤字にならないのかが気になります。


実は、弁特の加入率は約8割にも上りますが、その利用率は0.05%と異常に低く、弁特を使えるのに使っていないケースが相当数あると推測されます。

弁特の利用者が増えると、最終的には弁特を売り出している保険会社が慰謝料増額の負担を被ることにも繋がるので、加入はさせても積極的に利用はさせていない、ということかもしれません。


保険会社の事情はともあれ、被保険者からすればきちんと保険料を支払っているわけですし、弁特は使わないと損なので、事故に遭ったら自分や家族が加入している保険を一度チェックしてみましょう。

(『蒼生 2017年1月号』掲載記事)

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2017年4月17日 月曜日

残業代請求について(1)

今回は残業代請求について。

労働者を働かせられる時間は、原則として一日8時間、一週間40時間が上限となっています。
これを超えて労働させることもできますが、それには三六協定というものを締結したり、時間外労働について個別の合意をしたりする必要があります。

こういった合意があれば上限を超えた労働をさせることができるようになりますが、本来の時間制限を超えた部分の労働時間については、割増した賃金を支払わなくてはなりません。
割増率は、通常の時間外労働と深夜(午後10時~午前5時)労働が125%。休日労働が135%。
組み合わせによって重複が認められたり認められなかったりします。

どんな職場、どんな職業でも必ずこれが認められるというわけではなく、変形労働時間制を採用している職場や、一定の職業や地位に該当する人には時間外割増賃金が認められないことがあります。

相談者から未払い残業代の相談を受けた場合には、相談者の職種や地位、給与体系を確認した上で、実際にどの程度残業をしていたのかを確認することになります。

残業時間を確認・立証する資料として最もよく用いられるのはタイムカードです。
タイムカードが実際の労働時間を反映していない場合には、正しい労働時間を立証できる資料、例えば日記やメールの送受信履歴、印刷日時の印字されたコピーといった代替資料の有無が鍵となります。

これらの資料が揃っていれば、次に残業代を計算することになります。
相当に複雑な計算が必要となるので、今の時代、弁護士でも手計算で残業代を計算している人はほとんどいないのではないでしょうか。
私の事務所では、専用の残業代計算ソフトを用いて計算を行っています。

このような下準備を整えて、使用者に未払い残業代を請求することになります。
下準備はなかなか大変ですが、これをきちんとしていれば大体交渉段階で一定額の金員は支払ってもらえ、仮に訴訟や労働審判となってもほとんどが和解で決着するというのが残業代請求の特徴です。

未払い残業代を請求するまでの概略はこのような感じです。
残業代請求については論点が多いため、記事を2回に分けて、次回は残業代請求の裁判上の手続や使用者の反論当について触れる予定です。

(『蒼生 2017年4月号』掲載記事)

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2016年10月14日 金曜日

刑事事件の身柄拘束

刑事事件の被疑者・被告人となったときに重くのしかかってくるのが身柄拘束の問題です。


軽微な事案で証拠隠滅や逃走のおそれが低ければ任意の事情聴取という形で普通に社会生活を送ったまま捜査を進めてもらうこともできますが、そうでなければ逮捕・勾留という措置が取られます。


原則として、逮捕で48時間、被疑者勾留で10日間(延長で最長20日間)。
その後起訴されて被告人勾留に切り替わると、裁判が終わるまでの数か月間、留置場や拘置所で生活することになります。
当然仕事には行けなくなり、家族等との連絡手段は平日30分の面会か手紙のみ。
ネットも使えず、服や下着の替えにも事欠きます。
まともな感覚の人なら相当苦痛を感じる環境と言えるでしょう。


身柄解放手続としては「保釈」があり、
 ①起訴後に
 ②裁判所の保釈許可を得て
 ③保釈金を納付
すれば、外に出ることができます。
保釈金の額は一般的には150~300万円程度ですが、場合によっては億を超えることも。
後で返還されるとはいえ、それなりにまとまった金額をすぐには用意できないという人の方が多いでしょう。


身柄拘束されている人は何故か「外にいる家族が自分のために尽力してくれる」と思い込んでいることが多いのですが、実際には本人と外の家族との間には相当な温度差があります。
家族にも生活があるのでそう頻繁に面会に来られませんし、普通は保釈金もそう簡単には用意できないので、大半は裁判が終わるまで身柄拘束されたままとなります。


このように、刑事事件の身柄拘束処分は普段私たちが当たり前のように享受している自由を奪われるという相当厳しい処分で、それを解くのも容易ではありません。
初めて逮捕・勾留された人は、5~6日目あたりからだいぶ精神的に参ってくるようです。
中には、何度も犯罪行為を繰り返して、身柄拘束されることにも手慣れた印象を受ける被疑者・被告人もいますが、本当に恐ろしいのは、感覚が鈍磨して身柄拘束の環境に慣れてしまうことなのかもしれません。


身柄拘束されるようなことをしないというのが当然に第一ではありますが、そのような事態に至ってしまったときには、その不自由さや苦痛を胸に刻んで、決して忘れないようにして欲しいものです。

(『蒼生 2016年10月号』掲載記事)

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2016年7月20日 水曜日

法律相談のコツ

 最近は役所や法テラスで弁護士に無料相談できる機会が増えていますが、役所等の法律相談は30分程度と短いのが普通です。
 そこで、今回は効率よく法律相談をするポイントをご説明します。


①関連資料を持参する
 具体的な資料があるとないとでは弁護士のアドバイスの正確性が大きく変わってきます。
 交通事故なら診断書や保険会社からの文書、労働問題なら雇用契約書やタイムカード、不動産問題なら登記事項や賃貸借契約書、というように、相談内容に関連しそうな資料があれば必ず持参しましょう。

②自分の話は程々に抑える
 愚痴のような事情説明が延々と続く相談者は意外と多いのですが、法律相談は本来30分5000円もするものですし、無料相談にも回数制限がありますから、弁護士のアドバイスを十分に聞いて帰らないと非常にもったいないです。
 喋りたい気持ちはぐっと抑えて、自分の話は長くとも15分以内に収めましょう。
 効果的なのは、
「いつ、誰が、誰に、何をして、どうなった」
「自分はどうしたいのか、何を質問したいのか」
を事前に紙に書いて、相談時に弁護士に渡して読んでもらう方法です。
 A4用紙1~2枚に収まる程度で十分で、これを超える場合は無駄な情報が多数含まれていると考えてよいでしょう。
 情報が足りていなければ後から弁護士が不足部分を聞いてきますので、あまり何でもかんでも伝えようとしないのが短時間で説明するコツです。

③目の前の弁護士に執着しない
 法律相談で思うような回答をしてもらえないことがありますが、そこで食い下がるのは無意味です。
 法的に通らない話なら弁護士に食って掛かってもどうにもなりませんし、弁護士によって見解が異なる問題なら自分の力になってくれそうな別の弁護士に依頼を検討すればよいだけの話だからです。
 相性もありますし、目の前の弁護士の回答や人柄が自分に合わないと感じたらその相談はさっさと切り上げて、次の弁護士を当たるのが賢明です。



 法律相談で問題が解決するかどうかは、相談者が法律相談をどう活用するかにもよります。
 法律相談するときは、せっかくの機会を無駄にしないように、これらのポイントに気を付けてみてください。

(『蒼生 2016年7月号』掲載記事)

投稿者 士道法律事務所 | 記事URL

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