51.寄稿記事

2018年8月21日 火曜日

認知症に対する法的備え(2)

前回は後見制度の概要について触れました。
今回は後見制度の問題点について見てみます。


最初に把握しておきたいのは
「後見は本人の財産を守る制度として設計されている」
ということです。

認知症のAさんに子B、孫Cがいたというケースで見てみましょう。

Aさんは孫Cの学費を払うと昔から言っていましたが、認知症になって銀行が預金払戻に応じてくれなくなりました。
困った子Bが法定後見の申立を行い、弁護士Dが後見人に。
一安心した子Bに弁護士Dが告げます。

「Aさんの預金から孫Cの学費を支出することは認められません」

と。


成年後見は「本人の財産を守る」制度ですから、

・本人の財産を減らして第三者の利益を図る行為(孫の学費を援助してもらう、生前贈与や生命保険で相続税対策を行う)
・財産の減少を招き得る行為(元本保証がなく損失が生じる可能性のある株式その他の投資)

は基本的に認めてもらえないのです。


他には「後見・補佐が開始すると取締役の資格を失う」ということも重要です。
取締役に欠員が生じることになるので、会社によっては速やかに代わりの取締役を探し出して選任する必要が生じます。

「後見人が預り財産を横領する可能性がある」ということにも注意は必要でしょう。
後見全体に占める割合としては低いものの、弁護士や司法書士による横領事件も一定数発生しており、専門家だから絶対に安心とは言い切れません。


もっとも任意後見ならこれらの問題の多くを回避できます。
任意後見の場合は信頼のおける後見人を自分の意思で選べますし、事前に本人の意思を確認しておけばかなり柔軟な対応が可能となります。
例えば「孫の学費を大学卒業まで払う」という任意後見契約を予め締結しておけば、認知症となった後も孫の学費援助を継続できるようになるのです。


成年後見の最大の利点は「信用できない人間が本人の周囲にいる場合の抑止力になる」ということ。
本人の財産を食い潰そうとする悪徳業者や同居親族がいる場合、後見人をつけていればその被害はほぼ確実に防ぐことができるようになります。


2025年には認知症患者が700万人を超えると言われる時代。
来るべきときに備えて後見制度を正しく活用することが自分自身や家族を守ることに繋がるのかもしれません。


(『蒼生 2018年7月号』掲載記事)

投稿者 士道法律事務所 | 記事URL

2018年6月14日 木曜日

認知症に対する法的備え(1)

高齢化社会では認知症になった人の財産管理をどうすればよいかということが問題となります。

判断能力が低下した人の財産を守る制度としては「成年後見」というものがあります。
これは判断能力低下の程度に応じて「補助人」「保佐人」「成年後見人」といったサポートをする人を付けて、認知症に付け込んで財産を巻き上げようとする悪徳業者等から本人の財産を守ろうというものです。
未成年の子に対する保護者の役割と似ています。

後見には親族等から申立があったときに裁判所によって後見人が選任される「法定後見」と、将来自分の判断能力が低下したときに備えて予め後見人を選んでおく「任意後見」があります。

法定後見は、判断能力が低下してしまった後、親族等からの申立によって手続が開始します。
判断能力について診断した医師の診断書を裁判所に提出して、補助・補佐・後見のいずれに当たるのか判断してもらいます。

補助や補佐の場合、本人の判断能力がある程度残っているため、補助人・保佐人の同意がなければ借金をしたり不動産を処分したりできないようになります。

後見は本人の判断能力がないものとみなされた状態なので、後見人が財産管理を一手に担うことになります。


法定後見は、その申立をする時点で本人の判断能力が低下してしまっているわけですから、その開始に当たっていくつか問題点があります。

一つは「後見人を選べない」ということ。
申立時に候補者の希望を出すことはできますが、多くのケースで弁護士や司法書士といった法律に詳しい第三者が選任されます。
これは家族間のトラブルを防いで公平な立場から財産を管理させるためです。

もう一つは「本人に中途半端に判断能力が残っている場合に申立自体ができないことがある」ということ。
判断能力低下の程度が一番軽い「補助」の場合、補助開始の審判を行うには本人の同意が必要となります。
本人が「自分はまだしっかりしている!」と反抗したら申立自体ができないのです。

任意後見ならこれらの問題はクリアできますが、自分が認知症になった時の備えを早くからできる人というのは稀です。
また、任意後見であっても後見という制度の特質上、一定の問題は発生します。

次回は成年後見の問題点について触れてみます。

(『蒼生 2018年4月号』掲載記事)

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2018年5月14日 月曜日

相談内容をどう伝えるか

法律相談は初回30分を無料としている事務所が多いです。
法テラスの無料法律相談も30分以内で、役所の無料法律相談では20分~25分程度としているところもあります。
かなり効率よく相談しないと時間内に収まりません。

事実説明が上手い人というのは極めて少数です。
私の事務所では1時間の無料法律相談枠を取っていますが、それでも若干オーバーすることがほとんどです。

どうすれば効率よく余裕をもって相談できるのか。
以前にも一度触れましたが、今回はもう少し掘り下げてみたいと思います。

説明が長い人には、「とにかく丁寧に説明しないと弁護士は自分の悩みをわかってくれない」と思い込んでいる、という共通した特徴があります。
まずはこの思い込みを捨てましょう。
弁護士は心理カウンセラーではなく、法律問題の解決策を答えてくれる人です。
説明が長い人の話の8~9割は基本的に法律相談に不必要な情報です。
がんばって説明している時間のほとんどが無駄な時間なのです。

法律相談が時間ギリギリになる、自分は説明下手なのでは、という人には次の手法がオススメです。

まず一息で言い切れる短い文で最初に結論だけ述べます。
例えば「友人に貸した100万円を返してほしいのでこれを回収する方法を知りたいです」というように。
そうすれば弁護士はその結論を念頭に置いて話を誘導しながら聞いてくれます。
大事なのは一息で言い切れることです。
息継ぎが必要ならまだ無駄がある証拠なのでもっと削ってください。

次に自分から延々と話をしないようにします。
先に結論を述べておけば、弁護士の方から一つ一つ必要な情報を尋ねてきます。
それに答えていくのです。

そして一つの問いには一つの回答をします。
ついでにこれも伝えよう、と考えてはいけません。
法的アドバイスに必要な情報は必ず弁護士の方から聞いてきます。
どうしても伝えたいことがあれば弁護士からの質問が一通り終わってから伝えましょう。

これを徹底させればどんな事案でも時間内に弁護士からのちゃんとした回答が得られるはずです。
...といっても大概の人は喋りたがりなので、これを徹底させるのは難しいのですが。
ただ、意識するだけでもだいぶ変わってくるはずです。
問診等でも使えるやり方なので是非試してみてください。

(『蒼生 2018年1月号』掲載記事)

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2017年10月16日 月曜日

賃借人の立ち退きについて

今回は賃貸物件の立ち退きについてのお話を。

賃料を滞納する、他の住民と揉め事を起こす、部屋を雑に扱ってゴミ屋敷のようにしてしまう。
問題のある賃借人にどうやって退去してもらうかというのは大家、賃貸人にとって悩みの種となります。

賃貸借契約書のひな型には、大体「賃借人が賃料の支払いを〇か月(2、3か月となっていることが多いです)怠ったら契約を解除する」という条項が入っています。
では、これを1か月や2か月に設定しておいて、実際にその分の滞納があったら契約を解除できるのか。
答えは「ノー」です。

賃貸人の方から賃貸借契約を解除するには「信頼関係を破壊するに足る債務不履行が必要」という法理が判例上確立しているからです。
例えば「1か月でも滞納があったら即解除」という条項が契約書にあったとしてもこれは無効であり、契約解除の是非は信頼関係を破壊する事情の有無で決まります。

賃料不払いの場合であれば、3か月分以上の滞納があることが信頼関係破壊の目安となります。
騒音の場合は数か月以上夜中に騒音を出し続ける等。
ペットの飼育の場合はペット飼育禁止条項に反してペットを飼育し、かつ悪臭騒音等の実害を発生させたこと等が求められます。
それなりに重い違反がなければ賃貸借契約は解除できないということです。

契約解除ができるだけの違反があったとしても、賃借人が任意で出て行かない場合、最終的には訴訟や強制執行といった手段を取ることを考えなくてはなりません。
場合によっては、未払い賃料や原状回復の費用を回収できないどころか、家主側が転居費用を用意して「賃借人に退去して『いただく』」という事態になってしまうことも。

不誠実な賃借人に対して訴訟提起し、勝訴判決を得て強制執行をかけること自体はさほど難しくありません。
ただ、それにかかる弁護士費用や申立費用をどうするのかという問題は賃貸人に重くのしかかります。
そういった費用は法的にも現実的にも賃借人から回収することが難しいからです。

近年、保証会社による保証を要求する貸主が増えているのはこういった実情を踏まえたものといえるでしょう。
契約締結時に賃借人の人柄を見極めて、確実な保証人を要求すること。
それが賃貸借トラブルに対する賃貸人側の重要な対策となります。

(『蒼生 2017年10月号』掲載記事)

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2017年7月14日 金曜日

残業代請求について(2)

前回に引き続き残業代請求のお話を。

当事者同士の話し合いで問題が解決せず、第三者関与の下での解決を検討する場合、「あっせん」「労働審判」「訴訟」といった手続があります。

「あっせん」は行政が間に立って話し合いでの解決を目指す手続、「労働審判」と「訴訟」は裁判所が双方の言い分を聞いて一定の結論を下すことを目的とする手続です。


あっせんは出席に強制力がなく、法的な審理が尽くされるわけでもなく、任意の話し合いという色合いが濃く、弁護士が関与することは滅多にありません。


労働審判は原則3か月以内、3回期日以内に結論を出す手続、訴訟は特に期間制限なく主張と立証を尽くさせる手続です。

時折、「労働審判は早く終わると聞いたので労働審判でお願いしたいのですが」と言ってこられる相談者の方がいますが、そう都合のいいものではなく、本来は訴訟で1年くらいかけて審理するものを大幅に圧縮するのでどうしても無理が生じます。

労働審判に適した事件は意外と少なく、証拠が揃った争いのない簡易な事案でないと、労働者側が不利な譲歩を強いられたり、結局訴訟に移行して余計に時間がかかったりすることもあるので注意が必要です。


労働審判にせよ、訴訟にせよ、申立をするのは労働者側であることがほとんどです。
未払いの残業代があるということを労働者側が十分に主張立証しなくてはならないので、正しい計算をして、適切な証拠を揃えてこれを提出する必要があります。

使用者は基本的に受けて立つ側となるので、反論防御の対応を取ることとなります。
典型的なところでは、証拠の不備や計算の誤りを指摘する、その時間は労働していなかったと反論する、固定残業代制の採用を主張する、残業代の発生しない管理監督者であることを主張する等。
その他、変形労働時間制や裁量労働制、業務委託であって雇用ではないといった反論がなされることもあります。

裁判官は双方の主張立証の内容や程度から得られた心証に基づいて和解の提案をしてきます。
合意が得られれば和解、得られなければ審判または判決が下され、その内容に応じて今度は強制執行の要否を検討することとなります。

大まかな説明ではありますが、以上が残業代請求の基本的な流れとなります。

(『蒼生 2017年7月号』掲載記事)

投稿者 士道法律事務所 | 記事URL

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