13.労働問題

2016年8月 9日 火曜日

未払い残業代請求の流れ(6)~労働審判のデメリット~

 前回記事、「未払い残業代請求の流れ(5)~労働審判の具体的な手続~」で、労働審判の進め方を確認しました。
 今回は、「労働審判にはどのような問題点があるのか」ということを説明します。


 労働審判について検索してみると、ほぼ確実に、
「3回期日以内、2~3か月の短期間で決着する法的手続」
ということが第一の特徴として挙げられています。

 労働審判というのは、元々労働問題を迅速に解決するために創設された手続なので、当然と言えば当然です。
 そして、迅速性と引き換えにいくつかの問題が不可避的に発生します。


(1)労働審判で適切に審理できるケースは限られている

 「訴訟」によった場合、簡易な事案で4~6か月程度、複雑な事案で9か月~1年6か月程度が解決までに要する時間の目安です。
 労働審判はそれを半分以下の期間でまとめようというのですから、当然にある程度の無理が生じます。
 十分な検討を要する複雑な事案ほど、その傾向は強くなります。

 この点は当然裁判所も理解していて、弁護士会の研修や意見交換会では裁判所から、

「客観的証拠の少ないセクハラ、パワハラ事案、他の従業員にも波及する各手当の割増賃金性が争点となる事案、トラック運転手の労働時間のように事実関係の確定が3回の期日では困難な事案、就業規則の不利益変更等が争点で調停の成立見込みが低い事案等は、労働審判ではなく通常訴訟の手続によるように」

という要望が出されています。

 つまり、労働審判を選択すべき事案は、
「証拠がきちんと揃っていて、相手方があまり争ってこないことが予想される簡易な事案」
に限定されてくることになります。


(2)審判官が和解(調停)をかなり強く推してくる

 大阪の場合、労働審判の調停成立率は約80%です。
 第1回期日までに約20%、第2回期日までに約60%となっています。

 通常の訴訟であれば、ある程度争点整理をして裁判官が十分に心証形成してから和解の提案がなされますが、労働審判ではそうはいきません。
 何しろ、期日は3回(3回目の期日は結論を出すための期日なので実質的な期日は2回)しかないからです。

 そのため、審判官・審判員は、

「この証拠では残業代請求の申立を認めるのは難しい」
「訴訟になってもおそらく結果は同じ」
「和解した方があなた(労働者)にとってもいいのではないかと思う」
「今なら審判官の方から会社側をある程度説得することができる」
「遅くとも3回目の前までには決めなくてはならないので早く決断して」

等述べて、第1回期日から様々な言い方で強く和解を推してきます。
 結果、労働者側が本意ではない低額での和解を受け入れてしまうケースも少なからず発生してしまいます。


(3)書面作成等の時間当たりの労力の負担が大きい

 訴訟であれば、相手方の主張を引き出してからそれと矛盾する決定的証拠を突き付けるという戦術を立てたり、証拠をじっくり吟味して状況に応じて使い分けるということをしますが、労働審判の場合はそれが難しくなります。

 遅くとも第2回期日までには主張も証拠も出し尽くさねばならないので、時間当たりの作業量は跳ね上がります。
 事実関係の把握や証拠の準備に手間取っても、訴訟のように先延ばしにはできません。
 証拠が間に合わなければ不利な結論を受け入れざるを得なくなるだけです。

 また、弁護士に依頼する場合、その弁護士が既に受けている別の仕事を押し退けて後回しにしてもらわなければならないこともあります。
 結果、弁護士費用が高くなったり、受任そのものを断られたりすることもあります。


(4)最終的に手続が長期化することがある

 労働審判事件のうち、15~20%は調停を受け入れず、審判という形で終結します。
 このうち、半数以上が異議申立により通常訴訟に移行します。
 異議申立で通常訴訟に移行すれば、訴訟の審理を1からやり直すことになります。

 しかも、異議申立をしたということは、当事者が審判官の提案に応じなかったということを意味しますから、これが訴訟に移行して和解で早期解決することは考えにくいです。

 結果、労働審判の分だけ無駄に時間を費やしたということも起こり得ます




 こういった問題があるため、「短期間で終わる手続」という側面だけを見て労働審判に飛び付くのは考えものです。
 とはいえ、労働審判に適した事案であれば労働審判を選択するメリットは十分にあるので、その見極めが重要と言えるでしょう。


 ちなみに、統計データによると、労働審判における代理人の有無の割合は概ね次のような感じです。

・申立人 代理人あり  相手方  代理人あり   約73%
・申立人 代理人あり  相手方  代理人なし   約11%
・申立人 代理人なし  相手方  代理人あり   約11%
・申立人 代理人なし  相手方  代理人なし   約5%

 ご覧のとおり、労働審判の場合では代理人として弁護士が出てくるのがスタンダードとなっています。
 そして、裁判所との意見交換会では、「弁護士が関与している事案の方が調停(和解)成立率が高い」と言われています。
 こちらが弁護士をつけなかった場合でも、高確率で相手方は弁護士をつけてきますし、調停案が妥当なものかどうかは素人には難しい判断となりますので、申立前に弁護士への事前相談くらいは検討してみた方がよいのではないかと思われます。


 次回は、「訴訟はどのような手続なのか」ということを見ていきたいと思います。

投稿者 士道法律事務所

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