13.労働問題

2016年6月27日 月曜日

未払い残業代請求の流れ(2)~通知書の作成と送付~

 前回、「未払い残業代請求の流れ(1)~残業代が発生するケース~」で、どういう場合に残業代が発生するかを説明しました。

 今回は、「未払い残業代をどのように請求するか」ということを見ていきたいと思います。

 黙っていてもお金は入ってきませんので、まず「残業代を払ってくれ」ということを使用者(雇い主、勤務先、会社)に伝えます。
 伝える方法自体には特に制約はありません。
 口頭でも、メールでも、文書でも、言いたいことが伝われば何でも結構です。
 ただ、この「言いたいことが伝われば」という点が重要なので、普通は伝達内容に漏れが生じないよう、文書で伝えます。
 残業代請求を弁護士に任せた場合は、確実な伝達と時効中断のため、内容証明郵便か配達証明で「通知書」を送ることになります。


 次に、使用者に伝達する内容ですが、残業代を請求しようとする場合、大きく分けると、

 (A)未払い残業代の金額を具体的に計算できる場合
と、
 (B)未払い残業代の金額を具体的に計算できない場合

の2パターンがあります。

 (A)は、タイムカードの写しやメモがある等で、どの日に何時まで働いたのかを労働者自身が把握できているパターンです。
 この場合には、「この金額の残業代が発生しているので、これを支払って欲しい」ということを使用者に伝えることになります。

 (B)は、タイムカードの写しを持っていない、会社にそもそもタイムカードがない、自分でつけた記録もないといったケースで、実際の勤務時間を労働者自身が把握できていないパターンです。
 この場合には、「残業代を計算して請求したいので、タイムカード等の資料を開示して欲しい」ということを使用者に伝えることになります。

 このようにして、会社等の使用者に「未払い残業代を請求したい」旨伝えたら、とりあえず相手方からの回答を待ちます。
 回答の有無や回答の内容によって、その後の対応は全く違ったものになってくるからです。


 ちなみに、弁護士が労働者の依頼を受けて通知書を送る場合は、大体以下のようなことを記載します。

・労働者○○の代理人弁護士からの通知書であること。
・労働者○○の勤務開始日、労働条件(勤務時間、給与等)、退職日等。
・未払い残業代が発生している(可能性がある)こと。
・(A)の場合、具体的な残業代の支払い請求と振込先口座情報。
・(B)の場合、とりあえず包括的に残業代を請求し、具体的な金額は後日伝えること。
タイムカード、雇用契約書、就業規則等の開示請求。
誠実な対応を取らない場合は提訴の可能性があること。
・以後の連絡は労働者○○本人ではなく弁護士にすること。

 今はネットで調べれば通知書のひな型やテンプレートがいくらでも出てくるので、弁護士に依頼せず、本人が自分で通知書を送ってくるケースも見受けられますが、弁護士が作成する通知書と素人が作成する通知書には明確な違いが現れます。
 それが、労働問題を専門的、重点的に取り扱う弁護士が作成したものなら尚更です。
 一番差異が現れるのが、上記の赤字で記載した項目でしょう。

 当事務所でも業務効率化のため、未払い賃金請求用の通知書のオリジナルテンプレートは当然に存在します。
 もっとも、そのテンプレートの名前や金額だけ書き換えたものを完成版として利用することはなく、必ず事案に応じた微修正を入れます。

 例えば、資料の開示請求について、
「自分で未払い賃金を計算できているなら資料開示は必要ないのでは?」
「会社にタイムカードはないことはわかっているのに、これを請求するのは無意味では?」
と考える方もいるでしょう。
 現に、ネット上のテンプレートでは、これを盛り込んでいないものの方が多いです。
 それはおそらく、通知書を送った後の交渉の流れや、後に労働審判や訴訟に移行した場合のことを考えていないからです。

 タイムカードのコピーを持っていても、会社からタイムカードを提出してもらったら改竄の形跡が認められたこともあります。
 就業規則の有効性が問題となったときに、「通知書で就業規則の開示を求めたのに会社は開示しなかった」という事実があれば、就業規則の周知性についてこちらが優位に立てる可能性が高くなります。
 会社が資料を開示しなかった場合、この事実は後で付加金(残業代を払わない会社に対する制裁金)請求の是非に影響してきます。
 逆に会社が資料を開示してきた場合、会社が早い段階で和解を考えているのであろうという内情が推測ができます。

 このように、資料開示を求めておくことで、後の選択肢が圧倒的に増えるのです。


 また、こちらの請求に応じない場合の警告として何を言うか、どのような表現を用いるかは、「過去に会社に同様の請求をした労働者がいたのか」「その時会社はどのように対応したのか」「社長の性格はどうか」といったことを依頼者から聴取して決めます。
 依頼者からの聴取時効に応じて、態度や言葉遣いの硬軟、労基署への申告や刑事罰への言及の是非を個別に判断するわけです。


 弁護士が依頼を受けて通知書を送る場合には、後の手続のことも考えて、最善のルートを辿れるように、セミオーダー的に事案に合わせた通知書を作ります。
 こういう配慮が働いていますし、そこには各弁護士の個性も反映されるため、専門家が作ったものなのか、素人が作ったものなのかは、プロから見れば一目瞭然となりますし、その後の未払い残業代請求の成否も大きく変わってくるわけです。


 次回は、「通知書を送った後、裁判外でどのように交渉を進めるか」ということを見ていきます。 

投稿者 士道法律事務所

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