13.労働問題

2017年7月14日 金曜日

残業代請求について(2)

前回に引き続き残業代請求のお話を。

当事者同士の話し合いで問題が解決せず、第三者関与の下での解決を検討する場合、「あっせん」「労働審判」「訴訟」といった手続があります。

「あっせん」は行政が間に立って話し合いでの解決を目指す手続、「労働審判」と「訴訟」は裁判所が双方の言い分を聞いて一定の結論を下すことを目的とする手続です。


あっせんは出席に強制力がなく、法的な審理が尽くされるわけでもなく、任意の話し合いという色合いが濃く、弁護士が関与することは滅多にありません。


労働審判は原則3か月以内、3回期日以内に結論を出す手続、訴訟は特に期間制限なく主張と立証を尽くさせる手続です。

時折、「労働審判は早く終わると聞いたので労働審判でお願いしたいのですが」と言ってこられる相談者の方がいますが、そう都合のいいものではなく、本来は訴訟で1年くらいかけて審理するものを大幅に圧縮するのでどうしても無理が生じます。

労働審判に適した事件は意外と少なく、証拠が揃った争いのない簡易な事案でないと、労働者側が不利な譲歩を強いられたり、結局訴訟に移行して余計に時間がかかったりすることもあるので注意が必要です。


労働審判にせよ、訴訟にせよ、申立をするのは労働者側であることがほとんどです。
未払いの残業代があるということを労働者側が十分に主張立証しなくてはならないので、正しい計算をして、適切な証拠を揃えてこれを提出する必要があります。

使用者は基本的に受けて立つ側となるので、反論防御の対応を取ることとなります。
典型的なところでは、証拠の不備や計算の誤りを指摘する、その時間は労働していなかったと反論する、固定残業代制の採用を主張する、残業代の発生しない管理監督者であることを主張する等。
その他、変形労働時間制や裁量労働制、業務委託であって雇用ではないといった反論がなされることもあります。

裁判官は双方の主張立証の内容や程度から得られた心証に基づいて和解の提案をしてきます。
合意が得られれば和解、得られなければ審判または判決が下され、その内容に応じて今度は強制執行の要否を検討することとなります。

大まかな説明ではありますが、以上が残業代請求の基本的な流れとなります。

(『蒼生 2017年7月号』掲載記事)

投稿者 士道法律事務所 | 記事URL

2017年4月17日 月曜日

残業代請求について(1)

今回は残業代請求について。

労働者を働かせられる時間は、原則として一日8時間、一週間40時間が上限となっています。
これを超えて労働させることもできますが、それには三六協定というものを締結したり、時間外労働について個別の合意をしたりする必要があります。

こういった合意があれば上限を超えた労働をさせることができるようになりますが、本来の時間制限を超えた部分の労働時間については、割増した賃金を支払わなくてはなりません。
割増率は、通常の時間外労働と深夜(午後10時~午前5時)労働が125%。休日労働が135%。
組み合わせによって重複が認められたり認められなかったりします。

どんな職場、どんな職業でも必ずこれが認められるというわけではなく、変形労働時間制を採用している職場や、一定の職業や地位に該当する人には時間外割増賃金が認められないことがあります。

相談者から未払い残業代の相談を受けた場合には、相談者の職種や地位、給与体系を確認した上で、実際にどの程度残業をしていたのかを確認することになります。

残業時間を確認・立証する資料として最もよく用いられるのはタイムカードです。
タイムカードが実際の労働時間を反映していない場合には、正しい労働時間を立証できる資料、例えば日記やメールの送受信履歴、印刷日時の印字されたコピーといった代替資料の有無が鍵となります。

これらの資料が揃っていれば、次に残業代を計算することになります。
相当に複雑な計算が必要となるので、今の時代、弁護士でも手計算で残業代を計算している人はほとんどいないのではないでしょうか。
私の事務所では、専用の残業代計算ソフトを用いて計算を行っています。

このような下準備を整えて、使用者に未払い残業代を請求することになります。
下準備はなかなか大変ですが、これをきちんとしていれば大体交渉段階で一定額の金員は支払ってもらえ、仮に訴訟や労働審判となってもほとんどが和解で決着するというのが残業代請求の特徴です。

未払い残業代を請求するまでの概略はこのような感じです。
残業代請求については論点が多いため、記事を2回に分けて、次回は残業代請求の裁判上の手続や使用者の反論当について触れる予定です。

(『蒼生 2017年4月号』掲載記事)

投稿者 士道法律事務所 | 記事URL

2016年9月 2日 金曜日

未払い残業代請求の流れ(9)~残業代請求のポイント~

 前回記事「未払い残業代請求の流れ(8)~調停・和解と審判・判決~」で労働審判・訴訟の終結まで辿り着きました。
 これで未払い残業代の流れを一通り説明してきたことになります。

 最後に、これまで説明してきた未払い残業代請求のポイントをまとめます。


(1)未払い残業代が発生しているかどうかのチェックポイントは?

 「1日8時間以上または週40時間以上働いている」
 「22時以降に働いている」
 「週に1日以上の完全な休みがない」


という勤務状況で、

 「給与明細に『残業代』『時間外手当』等の項目がない」
 「『残業代』『時間外手当』の項目はあるが毎月定額で金額が低い」
 「実際の勤務時間と異なる時刻にタイムカードを切らされる」
 「そもそも会社にタイムカードがなく、まともに労働時間を管理していない」


といったことがあれば、とりあえず弁護士に相談してみましょう!


(2)未払い残業代を払ってもらうためにまずは何をすればいいの?

 最初は交渉を試みて、それで駄目なら労働審判や訴訟を検討するのが常道です。
 通知書の内容でその後の流れが大きく変わることもあるので、最初の一手としての通知書はとても重要です
 労働問題に強い弁護士が作る通知書はその点も踏まえた工夫がしてあるので、なるべくそういう弁護士を選んで交渉を依頼しましょう。


(3)交渉ではどんな証拠が必要になってくるの?

 タイムカードをつけている会社であれば、会社にタイムカードの開示請求をするので、労働者がこれを用意する必要はありません。
 ただし、会社がブラック企業で信用できない場合、事前にタイムカードのコピーを取っておいた方がよいでしょう。

 会社にタイムカードがない場合、労働者側で時間外労働の事実を示す証拠を用意する必要があります。
 一例を挙げると、

 ・退社前に会社のパソコンから送ったメール(できれば業務に関するメール)を印刷しておく。
 ・印刷日時の印字されたコピー資料等を保管しておく。
 ・「今仕事が終わった」といった家族や友人とのメールやLINEを保存しておく。
 ・何時から何時まで働いた、どういう仕事をした、というメモをつけておく。


といったところです。
 上にあるものほど証拠としての価値は高いです。

 その他、雇用契約書や上司からのメール等も証拠や交渉材料となり得るので、なるべく形に残るものを取っておきましょう。


(4)裁判所を使った手続にはどういうものがあるの?

 約3か月程度で終わる「労働審判」と、半年~1年程度を要する「訴訟」があります。
 「労働審判」は、短期間で解決するというメリットがある反面、適した事件がある程度限定される、十分な検討時間がないまま和解に流されることもある、異議申立で訴訟に移行すればかえって手続が長期化する、といったデメリットがあります。

 「労働審判」の場合は「審判」「訴訟」の場合は「判決」という、強制力のある結論を出すことを最終的な目標としています。
 ただし、いずれも大半のケースが「和解」で終結します。


(5)和解にはどういうメリットがあるの?

 「審判」や「判決」で決着する場合、言渡し時までその内容はわかりません。
 つまり、勝てると思っていても予想に反して不利な結論が出る可能性があります。
 また、訴えを認めてもらえたとしても、実際にこれを回収するには「強制執行」という手続を別途取る必要があります。
 しかし、「強制執行」は失敗に終わることが多く、せっかくの「審判」「判決」も絵に描いた餅となることが少なくありません。

 一方、「和解」の場合、請求額から減額はされますが、ほぼ確実な支払いが期待できます
 また、早い段階で紛争を終結させられる紛争の直接の対象以外のこともまとめて解決できる、といった特徴もあります。



 9回に分けて未払い残業代請求の問題を取り上げてみましたが、いかがでしょうか。
 当事務所には多数の労働問題の相談が寄せられていますが、法律相談に来ている人は氷山の一角に過ぎず、残業代請求を諦めてしまっていたり、そもそも残業代を請求するという発想がない人が世の中には相当数いるという印象を受けます。

 未払い残業代請求は、何ら後ろめたいものでも、遠慮すべきものでもありません。
 本来、会社が支払うべきものをごまかしていたに過ぎず、適正な労働の対価は労働者に支払われるべきです。


 当事務所に依頼された大半の事案では、150万円~300万円程度の残業代を実際に回収しています
 未払い残業代を請求しなければ、会社にこれだけのお金を掠め取られていたのです。

 全ての労働者が適正な対価を受け取ることができるように。
 士道法律事務所は依頼者とともに闘ってまいりますので、労働問題でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

投稿者 士道法律事務所 | 記事URL

2016年8月26日 金曜日

未払い残業代請求の流れ(8)~調停・和解と審判・判決~

 前回記事の「未払い残業代請求の流れ(7)~残業代請求訴訟~」では訴訟の流れを確認しました。
 今回は、労働審判と訴訟で出てきた「和解(調停)」についてです。


 「和解」というのは、「お互いに譲歩して紛争を終結させる法律行為」です。
 「和解」には「裁判外の和解」「裁判上の和解」があり、いくつかの違いがありますが、最大の違いは、

「『裁判上の和解』には判決と同等の強制力がある」

という点です。
 そして、労働審判や訴訟の手続内でなされた「和解」は「裁判上の和解」となります。


 「裁判上の和解」となった場合、裁判所が和解条項を記載した「和解(調停)調書」を作成します。
 残業代請求事件の場合、条項は概ね次のようなものとなります。

・会社が労働者に対して『解決金』として金○円を支払う義務があることを認める。
・会社は、前項の金員を○年○月○日限り、労働者の指定する口座に振り込んで支払う。
・会社も労働者も本件に関する事柄を第三者に口外しない。
・会社と労働者の間には上記以外何ら債権債務がないことを確認する。
・訴訟(申立)費用は各自の負担とする。

 『解決金』というのは、要するに争われた未払い残業代の支払いに充てられる金員のことです。
 『解決金』の金額は、事案の内容や両当事者の考え方等にもよりますが、請求額の50~80%程度となることが多いです。

 「債権債務がないことを確認する」というのは、「ここで決めたこと以外にはお互いに請求できるものも請求されるものもないことを確認する」という意味です。
 両当事者間の紛争を終局的に解決させるためのもので、和解の際には必ず入れられる条項です。



 紛争解決の手段として、和解はかなり有用であるため、裁判所も弁護士も大なり小なり和解を推奨してきます。
 和解の主なメリットは次のようなものです。


(1)一定額の金員をほぼ確実に回収できる
 労働者側の最大のメリットがこれです。
 例えば、300万円の残業代を請求していて200万円の和解を呑んだ場合、200万円はほぼ確実に支払ってもらえます。
 一方、和解しなかった場合、「200万円以上の審判や判決を得られるか」「実際に回収できるか」というリスクが生じます。
 特に問題なのが後者で、実際のところ、強制執行で回収に成功するケースは稀です。
 というのも、現在の仕組みでは強制執行のハードルが高く、回避も比較的容易にできてしまうからです。
 強制執行となればさらに費用がかかりますし、リスクを考えれば和解による確実な回収の方が賢明となるのです。

 一方、会社側の視点だと、これは「一定額を支払って確実に紛争を終結させられる」という意味合いになります。
 強制執行の回避が可能とは言っても、それには手間、費用、取引先の信用失墜、不安定な状況の長期化という問題点があります。
 未払い残業代請求が判決で決着した場合、「付加金」というペナルティの加算もあり得ますし、一定額を支払って確実に紛争を終結させるということは、会社側にもメリットがあるのです。


(2)それ以上その紛争に関わらなくて済む
 労働審判にせよ訴訟にせよ、弁護士が関与していたとしても、本人の協力は不可欠です。
 手続が続いている限り、本人は裁判所への出頭、弁護士との打ち合わせ、資料の準備と手間がかかります。
 しかし、和解がまとまって事件が早期に終結すれば、それ以上その問題に煩わされることがなくなります。


(3)紛争の直接の対象以外の問題も同時に解決できる
 例えば、未払い残業代請求で審判や判決で決着した場合、強制力が働くのは「未払い賃金の支払義務の有無」という点だけです。
 それ以外の物事については、手続内で言及があったとしても法的な強制力・拘束力は原則として生じません。

 しかし、「和解」であれば相当に柔軟な対応が可能になります。
 例えば、労働者が在籍したまま争っている場合、退職の日付や理由をどういうものにするか、社会保険の扱いをどうするか、といったことも和解条項の中でまとめて解決することができます。



 和解にはこのような利点があるため、未払い残業代請求労働審判・訴訟事件の7~8割は和解で終結します。
 会社側も支払う気があって和解するわけですから、普通は和解で決められた『解決金』を期限内に支払ってきます。
 もし、これを支払わないようなことがあれば、労働者側は「強制執行」を検討することになります。



 一方、和解せず審判や判決で決着した場合は、「強制執行」を検討することになります。

 強制執行の手段はいくつかありますが、通常想定できるのは、
①会社名義の預金の差押
②会社名義の不動産や動産の差押
③会社の取引先の売掛金の差押
といったところです。

 いずれの場合も、どこにどういう財産があるのかを労働者側である程度特定しなければなりません
 また、差し押さえた口座が空っぽだったり、抵当権が設定されていたりすると強制執行は空振り、失敗に終わります。


 次回でこのシリーズは最後となります。
 次回は、これまでのコラムで見てきたことを整理して、未払い残業代請求の問題にどのように対処すればよいのか、ということをまとめてみたいと思います。

投稿者 士道法律事務所 | 記事URL

2016年8月18日 木曜日

未払い残業代請求の流れ(7)~残業代請求訴訟~

 前回の「未払い残業代請求の流れ(6)~労働審判のデメリット~」では、労働審判の問題点を確認しました。
 今回は、労働審判との比較も含めて、「訴訟はどのような流れで進むか」ということを見ていきます。


 労働審判で調停(和解)が成らず、どちらかから異議申立がなされた場合、残業代請求事件は訴訟に移行します。
 もちろん、労働審判を経ずにいきなり訴訟提起することも可能です。

 訴訟手続(第一審)の大まかな流れは次のようになります。

・原告(労働者)が「訴状」と証拠を裁判所に提出する。
・提訴の約1~3か月後に第1回期日が設定される。
・第1回期日までに相手方(会社)が「答弁書」を提出する。
・第1回期日で争点を確認し、「準備書面」提出等次回までの課題を確認する。
・争点が十分整理されるまで準備書面等の提出と期日を繰り返す。
・裁判所が和解を打診する。和解が成立すれば訴訟終了。
・和解が成立しそうになければ証人尋問、本人尋問を行う。
・裁判所が再度和解を打診する。和解が成立すれば訴訟終了。
・判決言渡し。いずれかが控訴すれば控訴審に移行。


 「訴状」は「労働審判申立書」と似たようなものです。
 専門家である弁護士が作成する場合、事案にもよりますが、「訴状」が10~30枚程度、「証拠」が20~50枚(5~10種類)程度となります。


 「答弁書」は、訴状に対する最初の反論書面です。
 ここで詳しい反論の内容を述べても構いませんが、「『原告の請求を棄却する』との判決を求める。具体的な反論は後日提出する準備書面で述べる。」等の簡素な記載にするのが一般的です。


 「準備書面」は、原告被告それぞれの言い分を述べ、争点を明確化するための書面です。
 要件事実という法律上のポイントを理解した上で、的確に争点を把握して、自己の主張を漏れなく補強し、相手方の主張の矛盾点や問題点を指摘して、裁判所の心証を自身に有利に導いていくことになります。


 各期日で行われる手続は、実際のところかなり地味です。
 刑事事件ならまだしも、弁護士ドラマでよくあるような丁々発止のやり取りが民事訴訟でなされることはまずありません。
 事前に提出した準備書面の内容や和解の協議状況を確認して、次回までの準備事項を確認して、次回期日の日程調整をして終わりです。
 代理人として弁護士が入っていれば、通常は書面で問題が整理されていくため、無駄なことをする必要がないのです。

 ちなみに、一方が弁護士を入れずに争っている本人訴訟の事案だと、期日のやり取りが若干派手になります。
 どういうことかというと、本人は大抵法律の素人ですから、書面の内容の内容も期日のやり取りも大体トンチンカンなことになります。
 結果、不利な立場に追い込まれた本人がキレて、裁判所と相手方弁護士に怒鳴りたてることもあるということです。


 残業代請求(未払い賃金請求事件)の場合、提訴から4~6か月も経てば争点は概ね整理されます。
 争点が整理されて、裁判所がある程度心証を形成したら、裁判所は双方に和解の可能性を確認します。
 必要な証拠が揃っていれば、請求額の50~80%程度の金額が和解のラインとして出てくることが多いです。

 双方が和解に応じれば、清算条項等を入れた和解調書を作成して訴訟は終結します。
 あとは、約束の期日に支払いがなされるのを待つだけです。


 双方の歩み寄りが得られず、和解が成らないとなれば、必要に応じて尋問手続を行います。
 多くの場合、原告側は労働者本人、被告側は会社代表者や原告の上司を尋問します。
 1回の尋問は、こちら側の弁護士(主尋問)、相手側の弁護士(反対尋問)、裁判所(補充尋問)の順に行われます。
 尋問手続が終われば裁判官が判決を書くための情報は全て揃うので、再度和解の勧試がなされます。
 それでも和解が成立しなければ弁論は終結し、1~2か月後に判決言渡しとなります。


 残業代請求訴訟は大体このような流れとなります。

 次回は、「『和解(調停)』で終わった場合と『労働審判』『判決』で終わった場合の違い」についてです。

投稿者 士道法律事務所 | 記事URL

アクセス


大きな地図で見る

〒530-0047
大阪市北区西天満4-7-1
北ビル1号館201

御堂筋線 淀屋橋駅
谷町線/堺筋線 南森町駅
四つ橋線 西梅田駅
JR 大阪天満宮駅 北新地駅

お問い合わせ 詳しくはこちら

新着情報

一覧を見る

2017/08/03

【夏季休業のお知らせ】
 8/16(水)~8/22(火)の間、夏季休業とさせていただきます。

2017/07/04